第四話  銀髪のお誘い










敦盛と共に進んでいくと、森の中に入って行った。

と、そこへ。

見覚えのある、後ろ姿が目に入り、望美は声を上げる。



「九郎さん!!」



嬉しそうに彼を指差す。

だが、またも九郎は望美に気付かずに走り去ってしまった。



「敦盛さん!追いかけましょう!!」

「え?あぁ。分かった。」



勢い勇んで走り出そうとした時。



「そんなにお急ぎになられてどちらへ行かれるのですか?」

「・・・・・くっ。楽しませてくれそうじゃぁないか。」



似たような顔の銀髪の男二人が望美を両側から抱くように引き止めた。

突然の出来事に望美は左右に首を動かし二人を見上げる。



「えっと・・・・。あの〜。」



誰?と、目で訴えると一人は柔らかに微笑み、もう一人は挑戦的な目で笑った。



「性急なお嬢さん。名乗り合うのは夜が更けてからでしょう?」



と、穏やかに笑った方が言った。

すると。もう一人も。



「知りたくば、俺にお前を刻み付けてみせろ。」

「・・・・・。」



悪いが、夜が更けるのを待つ時間も、刻み込む余裕も無いと、望美は思った。

このまま、二人に捕まったままでは、九郎を見失ってしまう。



どうしよう?



そう思案顔の望美の横で、スラリと、刀が抜ける音がする。

望美は条件反射で己の剣を構えた。



「ほぅ。・・・・いい目をするじゃぁないか。」



『刻み付けろ』と言った男が愉快気に刀を抜いたのだ。

望美は彼が敵なのか判別しかねたが、刀を向けられている以上、武装解除は出来ない。



「どういうつもり?」



望美がそう尋ねると、男は笑ったまま。



「俺を・・・・楽しませてくれよ?」



と、言って刀を振り下ろしてきた。

望美はそれを剣で受け止める。



「兄上!おやめ下さい。」



もう一人が、彼を諌めるが。

余り効果は無く。



「重衡・・・・。お前は黙っていろ。」



より一層、刀を重く振ってきた。

望美は防戦一方になる。



「もう、止めてよ!急いでるんだから!!」



一向に斬撃を止めない男に望美は苛立ちながら怒鳴った。

だが。



「そう、熱くなるなよ・・・・。楽しみはこれからだろう?」

「だからっ!急いでるんだってば!!」



しかし。望美のその訴えは一向に受け入れられず。

むしろ、怒る望美の顔を彼は嬉しそうに見ていた。

望美のイライラが頂点に達しようとしていた時。



「クククッ。・・・・・獣のような、女だ。」



その、男が言った一言に。

遂に望美の堪忍袋の緒が切れる。



「誰が、獣なのよ!!!!????」



ドカーーーーーーン!!!



望美は剣を大きく振りかぶり、男はその衝撃で空高く舞い上がった。

そして、少し離れた大木に大きな音をたてながら墜落。



「・・・・・・兄上?」



『重衡』と呼ばれた男が呼びかけるも、彼はピクリとも動かない。

そして、重衡が兄に近寄っていった隙に、望美は敦盛に向き直る。



「今のうちに、行きましょう!」

「あ。いや。しかし・・・・・・。」



敦盛は心配そうに吹き飛ばされた男を見た。

が、望美は。



「大丈夫です。峰打ちだから、死んでません。」



自信を持って答える。



「そうか。・・・・・ならば、行こう。」



敦盛は望美の言葉に頷くと、九郎の消えたほうに走り出していった。





「兄上?生きていらっしゃいますか?」



重衡がそう問うと、クククッという、笑いが聞こえてきた。

吹き飛ばされた男―――― 知盛は頭から血を垂らしながら嬉しそうに笑っている。



「いい・・・・・女だ。」



知盛の言葉にハッとして、重衡が振り返ると、望美の姿は、もうそこに無かった。



「清らかな月のような姫君。姿を隠してしまわれたのですね。」



重衡は残念そうに呟いた。

だが、知盛はフラフラと立ち上がりながらこう言う。



「なに。消えてしまったなら、見つければいいさ。」

「そうですね。確か、ウサギを追っているようでしたが。」

「クッ。ならばウサギを探せばいい。」



兄の言葉に頷くと重衡はさっさと、望美達が消えたと思われる方向へ歩みだす。

知盛もよろめきながら、その後を歩いていった。

こうして、銀髪兄弟は、逃げた望美の後を追いかけることになる。




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 〜あとがき〜
原作の双子を見た時、彼等で決まりだと、思いましたね(笑)



   
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