第五話 発明家
「はぁぁぁ。・・・・・疲れた〜。」
走るのを止めた望美は肩で大きく息をしながら呼吸を整えた。
「神子。大丈夫か?」
そんな望美を敦盛は心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫です!それよりも九郎さんは??」
追いかけた先をキョロキョロと見渡したがそれらしい影は見当たらない。
「また、見失ってしまったようだな。」
「もう。九郎さん足速すぎ・・・・・。」
ぐったりと脱力してしまった望美はその場に弱弱しく座り込んでしまった。
疲れがドッと襲ってきたのだろう。
いくら鍛えているとはいえ、女性の体には些か無茶だったようだ。
望美は力の無い溜息を吐いた。
「大体、小さいのに何でこんなに足が速いのかなぁ?」
「神子。今の貴女は九郎殿と同じくらいの大きさだから仕方が無い。」
「あ。そうですね。・・・・じゃぁ。大きくなったら追いつけるかな?」
「そうだな。歩幅が変わるから或いは、追いつくことも可能かもしれないな。」
そうは言ってみたものの、実際、大きくなる手段は彼らには無かった。
もしかしたら、小さくなる薬をくれた弁慶が持っている可能性も考えたが。
「・・・・・ここまで来ちゃったら戻るのも大変そう。」
そう思うと、今このまま道に沿って歩むしか方法は無いと考えざるを得なかった。
と、そこへ。
「おやおや〜?何か困り事かなぁ〜?」
豪く陽気な声が頭上から降ってきた。
望美と、敦盛は上を見上げる。
大きなキノコの上に見慣れた姿を見つけた。
「景時さん!?」
「あれ〜?望美ちゃんじゃない。こんな所で何してんだい?」
あんぐりと口を開けて驚いている望美に景時はニコニコと笑顔を向ける。
「あの。九郎さんを見かけませんでしたか?」
「え?九郎なら、あっちに走って行ったよ。」
と、景時は真っ直ぐに続く道を指差す。
その先は深い深い森で、望美はがっくりと肩を落とした。
「一体、いつになったら追いつけるのかなぁ。」
もはや、諦めがちに溜息を吐く。
しかし、ここまで来てしまった意地もある。
望美はもう一度力を振り絞り、立ち上がった。
「よし!もう一度追いかけましょう!」
ほんの少し、元気を出した望美に敦盛は安堵したような笑みで「あぁ。」と答えた。
「景時さん、ありがとうございます!」
「いいんだよ。君の役に立てたなら光栄さ。」
景時も笑みを浮かべて答える。
「じゃぁ。私達先を急ぎますんで・・・・。」
そう、別れを切り出した途端。
ズシン!!
後から大きな地鳴りがした。
3人は驚き、振り返る。
そこには、大きな体躯の武者姿の怨霊が立っていた。
見えているのか定まらない眼で、望美達を見つけると、これまた大きな刀を振り下ろしてきた。
敦盛は望美を抱き上げながら飛び上がり、景時もキノコの上から降りてその攻撃を回避する。
「な、なんですか!?」
望美は声を裏返して尋ねる。
「随分、おっきな怨霊だね〜。」
「もしや、怨霊を操る何者かが、神子を狙ってこのような怨霊を生み出したのだろうか・・・・。」
「そんな事が出来るんですか!?」
「いや・・・・。良くはわからないが・・・・・。」
そう、会話をしている合間も、怨霊は容赦なく刀を振り回す。
彼らはただ、避けることしか出来ない。
だが、望美はその怨霊を見上げながら言った。
「でも、結局は怨霊なんですよね?だったら封印出来るんじゃないですか?」
「そうだね〜。でも・・・・・。」
景時もチラリと、怨霊を見上げる。
「ちょっと、大き過ぎじゃないかなぁ?」
「そうですね・・・・・。」
「う〜ん。」と望美は頭を捻った。
しかし、いくら考えても良案は浮かばず、その間にも巨大な怨霊は望美達に襲い掛かってくる。
「こんなとき、体が大きかったら・・・・。」
そう、望美が零した台詞に景時は何かを思い出したような顔をした。
「そうだ!大きくなればいいんだよ!」
「え?でもそんな事出来るわけ・・・・。」
景時は先程乗っていたキノコの付近をゴソゴソと探り出す。
そして、自信たっぷりの顔である物をかざした。
「じゃ〜ん!俺が発明した物体を大きくする発明品。その名も『のび〜るくん 326号』!!」
と、大きなリモコンと発信機のような物を取り出してきた。
「なんと、この発信機を付けた物体は何でも大きく出来ちゃうんだよ〜。」
「スゴイ!本当ですか、景時さん!!」
望美は興奮気味に食いつく。
「もちろん!いくつかの物体を実験済みだからね。・・・・でも人間には試した事無くって。」
「何に試したんですか?」
「え〜と・・・・・。あのキノコとか、花とか、木とか・・・・。そういえばこの前発信機を一個落としちゃったんだよね〜。
結局見つからないから諦めたけど。」
「でも、とりあえず実験は成功してるんですよね?」
「うん。ほら、あそこ。」
そう景時が指差した先には大きなキノコ群や花などがあちこちに合った。
それらを確認すると、望美は意を決して景時を見つめる。
「じゃぁ。景時さん。お願いします!」
「わかった・・・・・。行くよ?」
望美が頷くと同時に景時はリモコンのスイッチを押した。
すると。
望美の体と剣が電流のような光に包まれながら、みるみる内に大きさを増していく。
たちまち、巨大な怨霊と同じくらいの大きさへと変化していった。
「やった〜。望美ちゃん、成功だよ〜。大丈夫??」
「神子。平気か?」
今や、二人を見下ろすほど大きくなった望美は二人に向かって大きく頷くと、怨霊に剣を向けた。
「はぁぁぁぁ!!!!」
勇ましく、望美は怨霊に剣を振る。
素早い望美の太刀筋を読めずに、怨霊はダメージを負った。
「ギィィィィ!!!」
「やぁ!!」
もう一太刀浴びせると、怨霊は更に動きを鈍らせる。
望美はそれを見逃さなかった。
封印の言葉を唱え出す。
そして。
「・・・・彼のものを封ぜよ!!!」
そう唱えた途端に、怨霊は光に包まれ一瞬にして、光と共に消えて無くなった。
望美はホッと息を吐く。
「やりましたよ!景時さん!敦盛さん!」
「神子。見事な封印だった。」
「流石望美ちゃんだね〜。お疲れさま〜。」
二人も安心した顔になっていた。
望美も嬉しくて、安堵の笑みを浮かべている。
ふと。
望美は周囲を見渡してみた。
大きくなった体は遙か遠くの城らしきものを見る事が出来た。
「もしかして。九郎さんはあそこに向かったのかな?」
豪華な作りの城への興味がムクムクと沸いてきた望美は下の敦盛に声を掛けた。
「むこうに、大きなお城があるんですけど。九郎さんはそこに行ったんじゃないですか?」
「そうだな。景時殿の教えてくれた道はそちらに向かっているようだ。」
敦盛は頷く。
どうやら、城を目指すことに異論はなさそうだ。
だが、その会話を聞いた景時は度肝を抜いたような顔で聞き返してきた。
「の、望美ちゃん!?あの城に行くのかい!!??」
「え?はい。ダメですか?」
「いや・・・・・。ダメって言うかその・・・・・・。」
「あの・・・・。行っちゃいけない場所なんですか?」
「う〜ん。行っちゃいけない訳じゃないんだけど・・・・・。」
景時はモゴモゴと口ごもりながら困った顔で考え始めた。
望美と敦盛は首を傾げるばかりだ。
すると、景時は意を決した顔で望美達を見た。
「よし!じゃぁ。俺もついて行くよ!」
「え?本当ですか?」
「うん。ここから先は怨霊とか結構出て、危ないからね。一人でも多いほうがイイでしょ?」
「わぁ。ありがとうございます♪」
望美は歓声を上げる。
「あ。そろそろ。体を戻さないとね。」
景時は思い出したようにリモコンに目を向けた。
「・・・・そうですね。」
望美は苦笑いをしながら答える。
それも、そのはず。
よくよく見ると、辺りは怨霊との巨大な戦闘を繰り広げたせいで、木々はいくつか倒され、花々を踏み散らし、挙句の果てには森の動物達が脅えたように隠れてしまっていた。
きっと、このままの姿でいれば、怨霊以上に自分が森を破壊しかねない。
大きい体は魅力だったが、やむ終えないと望美は諦めた。
ところが。
「あれ?あれ、あれ??」
景時がリモコンを操作しても一向に望美の体は元の大きさに戻らない。
「・・・・・もしかして壊れちゃったんですか?」
望美は冷や汗を垂らしながら問う。
「ちょっ・・・・ちょっと待ってね!修理するから!!」
景時は慌てて工具箱を取り出し、リモコン内部を弄り出す。
しょうがなく、望美はその場に座って待つことにした。
その時。少し離れた先に、キラリと光る物を見つけた。
望美は目を凝らして、それを探す。
よく、目を凝らして。
見つけたもの。
それは・・・・・。
「・・・・・これって、発信機?」
今の望美にとって、それはアリのように小さい物体ではあるが、見たことのあるその形は先程、自分が大きくなるときに景時が自分につけてくれた発信機と同じものだった。
望美は自分の発信機の位置を確認する。
だが、望美の分の発信機は取り付けられたまま。
望美は不可解な顔で敦盛に尋ねた。
「敦盛さん。コレ見つけたんですけど、私の分って、付いてますよね?」
「あぁ。神子の分は付いたままだ。」
敦盛は望美から拾った発信機を受け取り、彼女の分の発信機も確認する。
「じゃぁ。これってなんですか?」
二人はまたも、首を傾げる。
すると。
「あ〜!!それ無くしてた発信機だよ〜!!」
景時は嬉しそうに立ち上がり、敦盛の手から発信機を受け取った。
「いやぁ。やっと見つかった〜。ありがとう。何処にあったの?」
「えっと・・・・。あの辺に落ちてて。」
望美が指し示した先を見て、ふと、敦盛が言った。
「あの辺りは、先程神子が怨霊を浄化した所だな。」
その台詞に3人の動きが止まる。
怨霊巨大化+浄化した所で発信機発見=・・・・・・・・。
「も、もしかして・・・・・コレが原因??」
景時は顔を引きつらせながら笑う。
望美と敦盛も顔を強張った表情になる。
「ご、ごめんね・・・・。」
「ま、まぁ。原因が判ったんで良かったです!ね?」
「そ、そうだな。神子の言うとおりだ。」
何事も無かったように望美は無理矢理笑いを浮かべ、敦盛もそれに倣う。
景時も「アハハハ・・・・。」と力なく笑った。
その後。
望美の体は無事、元に戻り。
城へ向けて出発した。
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〜あとがき〜
久々の更新です。
オチがヌルイ気がするのはきっと、気のせいさ・・・・。アハハハハ・・・。

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