第六話 美的感覚は個人の自由?
無事、体が戻った望美は気を取り直すように軽く咳払いをした。
「じゃあ。お城に向かいましょう!」
「うん。それじゃあ、俺に付いて来てね。」
案内役は景時。
自ら買って出た。
「景時さん。行ったことあるんですか?」
「うん。ちょっとね〜。」
余り突っ込んで聞いて欲しくないように、景時は深くは説明してこなかった。
話したくないものを無理に聞く必要もないと、望美も敢えて聞かない。
そのまま、3人は深い森をまた進んでいった。
しばらく行くと、何処からか話し声が聞こえてきた。
3人は歩みを止めて、辺りを見渡す。
「また、怨霊ですか?」
「ん〜?どうかなぁ?」
気配を探っていると微かに、笑い声のような声も聞こえてきた。
そちらの方へゆっくりと近づいていく。
そぅっと、木々の間から正体を探った。
すると。
「あぁ・・・・。なんて美しいんでしょうか。」
うっとりとする声。
その声はなんと、目の前の大きな紫色の花から聞こえてきた。
「か、景時さん!!花が喋ってますよ!?」
望美は驚き、指差しながら景時に言う。
「あ、あれはもしや・・・・・。」
「敦盛さん。知ってるんですか?」
敦盛が呟くと同時に景時も顔を少し引きつらせた。
そして、真剣な顔つきで敦盛は答える。
「あれは、惟盛草と呼ばれる花だ。」
「・・・・・・・はい?」
望美の頭の上に疑問符が飛び交う。
望美はそんな名前の花など見たことも聞いたことも無い。
「何ですか。惟盛草って?」
「惟盛草は怨霊を操る力を持った花で、彼自身も怨霊なんだよ。」
景時は真面目な声で銃を装備しながら説明をする。
「俺も初めて見たけど。どうする?」
そう、問われても望美にはイマイチ惟盛草が理解出来ず。
「あの・・・・・。害とかあるんですか?」
「いや。惟盛草はあんまり凶暴性は無いって聞いたけど?」
「そうなんですか?じゃあ。別に封印しなくても良いんじゃないですか?だって・・・・・・。」
望美は言いながらチラリと木の陰から惟盛草を指差した。
惟盛草は手鏡を持って自分を映し出していた。
そして。
「あぁ・・・・。私のこの美しさは誰にも及びませんね。どうしてこんなにも美しいのでしょう・・・・。」
先程よりも更にうっとりとしながら惟盛草は眩暈を覚えたかのようにクラリとよろけた。
「おぉっと。いけません。余りに美しすぎて眩暈が起きてしまいました。」
そして、惚気たように「ウフフフフ・・・・・・。」と笑う。
「・・・・・・邪魔しちゃいけないような気がするんですけど。」
「そ、そうだな。」
「まぁ。今のうちに逃げるってのもアリだよね?」
3人の意見は一致した。
この場から速やかに立ち去る。
そう考えて、物音を立てないようにそっと木から離れた。
と、その時。
バキッ!!
望美の足元で大きな音がする。
目を落として見ると望美は一本の落ちた枝を踏んでしまっていた。
「誰です!!そこに居るのは!?」
当然、惟盛草の耳に届く範囲内での出来事だったので、惟盛草は望美達の居る場所に振り返って声を出した。
「ど、どうしましょう!?」
「このまま逃げても意味は無いのでは無いか?」
「そ、そうだよね。話せばきっと判ってくれるよね?」
3人は静かに木の影から姿を見せた。
惟盛草は少し、訝しみながらも興味を持って尋ねてきた。
「貴方達は何者です?」
「えっと・・・・・・。お城を目指してまして・・・・・・。」
「おやおや。物好きな。見ない顔ですね。貴方方はなんと言う名の花なのです?」
ジロジロと望美の頭の先からつま先までを見渡しながら惟盛草は問う。
「春日望美と言います。」
「ノゾミ?・・・・・聞いたことの無い品種ですね。新種の花でしょうか?」
頭をひねり出した惟盛草に向かい、望美は首を横に振って否定した。
「あ、いや。私、花じゃないですよ?」
その言葉に惟盛草はポカンと口を開けてしまった。
「花じゃ・・・・・無い?では何だと言うのです?」
「人間です。」
望美が返答すると惟盛草は持っていた手鏡を落としてしまった。
そして、叫びにも近いヒステリックな声を上げる。
「に、人間!?汚らわしいっ!」
「は?」
「この私の美しい園に人間ごときが踏み込んで来るなど!!ええい!!早く立ち去りなさい!!」
まるで汚い物を追い払うように、惟盛草は顔を葉で隠しながら「シッシッ!!」と望美達を手払いする。
こんな態度を取られて、気を悪くしない者は居ない。
望美はムッとして、惟盛草を見た。
「ちょっと!失礼じゃないですか!」
「お黙りなさい!!貴女のような下賎の者に気安く話しかけられたくなどありません!
大体、何です?その足を出した服は。品性の欠片も感じませんよ!」
と、服装を詰られて望美の堪忍袋が少し切れた。
「自分だって、その紫の花びら!趣味悪いじゃないですか!!」
売り言葉に買い言葉。
景時も敦盛さえも思っていた言葉をうっかり望美は口にした。
すると。
惟盛草がプルプルと怒りで小刻みに動き出した。
「しゅ、趣味が悪いですって・・・・?私に向かってそんな言葉。許しませんよ!怨霊・鉄鼠!!!」
そう、惟盛草が叫んだ瞬間。
望美達の前に目を光らせた鼠が現れた。
「ホホホホ。やっておしまいなさい!」
「チュウ!!!」
惟盛草の合図とともに怨霊・鉄鼠は3人に飛び掛って来た。
3人はそれぞれの武器でガードする。
しかし、それだけで精一杯。
防戦一方のまま大木の前に追いやられる。
「ま、まずいよ。この怨霊、なかなか強いよ。」
景時は冷や汗を流しながら呟く。
「しかし、弱らせてからでないと神子の封印は跳ね返されてしまう。」
敦盛も息を乱しながら言う。
「けど、このままじゃ・・・・・・。」
確実にやられてしまう。
『どうしたら良いの?』
3人を追い詰めた鉄鼠は途端、ゆっくり身構えると。
とどめを刺す為に勢い良く飛び掛って来た。
「くっ!!」
望美は目を閉じ、剣を構えた。
もうダメだ。と思いながら。
と。その時。
「神子!」
誰かが自分を呼ぶ声を聞いた。
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〜あとがき〜
さて。誰でしょう?

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