第十二話 トラブルメーカーに自覚症状はゼロ
無事、八葉救出チームが結成されたわけだが、望美は「う〜ん」と考え込んでしまった。
「如何しました?十六夜の君。」
「うん。皆を助けてから、怨霊を作り出してる赤の王を止めようと思うんだけど・・・・・。」
逃げてきた道を戻り、城門の前に差し掛かった。
目の前の門は白の女王の城門。
門の前には始めとは違い、強そうな門番が立っていた。
そして、そこから少し離れた所に見えるのがおそらく赤の王の城と思われる。
何故なら、その城の屋根は目がチカチカするほど赤く、旗も赤い。
城を囲うように出来ている門から覗く木々も赤い花で統一されていた。
白の女王の城とは対照的な様相は確かめるまでもなく赤の王の城であろう。
そして、この二つある城が今の望美を悩ませている要因。
「皆は、どこに捕まったのかな?」
二つを同時に攻め落とすのは不可能だ。
対して、一方だけを攻めて外れてしまっては後々面倒な気がする。
望美はまたも「う〜ん」と唸った。
そんな彼女に知盛はフッと笑って言う。
「そんなもん。決まっているだろう。」
「え?分かるの?」
「・・・・・こっちの城だ。」
知盛が指したのは白の女王の城。
望美はキョトンとする。
「な、何で?」
理由を問う望美に知盛は鮮やかな自信満々顔で言う。
「勘だ。」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
思わず望美は気の抜けた返事をしてしまった。
が、知盛はお構いなしにズンズンと門へと歩いて行く。
「ちょっと!待ちなさいよっ!!」
「・・・・・早く来い。」
「『早く来い。』じゃない!適当に進んでも仕方ないでしょうが!!」
望美は知盛を止めようと追いかけた。
ところが。
「貴様ら。ここで何をしている。」
野太い声が望美達を呼び止めた。
そろ〜っと声のほうを見上げると、いつの間にやら門前に来てしまっていたらしく。
強面の門番が望美と知盛をジロリと見据えていた。
「う・・・・・あ、あの。・・・・・・えっと・・・・・。」
しまった!と思ったがもう、戻れない。
けれども、上手い言い訳が出てこなくて望美は口ごもってしまった。
そんな望美を門番は訝しんで見る。
「怪しい奴らだな・・・・・・。何者だ。」
門番は持っていた槍を二人に向けた。
『どうしよう?』と思うと、優しく肩を叩かれた。
振り返れば、いつの間にやら追いかけてくれた銀が優しく微笑む。
「ご安心ください。十六夜の君。ここは私が。」
そう言って、銀は門番の方へ歩み寄った。
門番は一層、怪しんだ顔で見た。
途端、知盛が望美の視界をさえぎるように手で眼を覆う。
「え?な、何??」
すると、その直後。
ドスッ、バキッ、ゴフッ。
鈍い音と男性の呻き声が耳に入ってくる。
視界を遮られた状態では何が起こったのか分からない。
「ちょっと。何が起こってるの?」
両目を塞ぐ知盛に尋ねるが、彼の返事は。
「・・・・・気にするな。」
いや。無理だから。
そして、しばらくの後。
やっと知盛が望美を開放した。
急に光を取り戻してチカチカする眼の前にあった光景に望美は首をかしげる。
そこには、力なく横たわった強面の門番と、いつもと変わらない笑顔のままハンカチで手を拭く銀がいた。
戸惑っている望美に銀は言う。
「どうやら、皆様はこちらの白の女王の城に捕らえられているようです。」
「え?そうなの?」
「はい。こちらの方が親切に教えてくださいました。」
銀は身動き一つとらない門番を指す。
「その人、大丈夫?」
「えぇ。少し、眩暈がしたようです。横になっていれば大丈夫でしょう。」
銀の笑顔は、まるで後光が差しそうなほど輝いていた。
その笑顔に、望美はそれ以上問えなくなる。
「では、参りましょうか。」
「う、うん。」
門番の身を案じつつも、望美は先を急ぐため門を開けようと手をかけた。
が。
扉はびくともしない。
「・・・・・どうやら、鍵がかかっているようですね。」
しかも、こちら側に鍵穴はない。
つまり、内側から鍵をかける仕組みのようだ。
「ど、どうしよう。向こうから開けてもらわなきゃ開かないよ。」
これには銀も困ったように眉を寄せた。
ところが、そんな二人を尻目に知盛はツカツカと扉に歩み寄ると、両手の刀を構えた。
そうして。
ドガッ!!!
大きな音が轟くと、扉はいとも簡単に崩れ落ちた。
パラパラと、木片を撒き散らしながら知盛は二人へ振り返る。
「・・・・・・開いたぞ。」
「壊したんでしょうが!!!!」
知盛の足元には無残に散る瓦礫。
その向こうからザワザワと声が聞こえてくる。
「何事だ!?」
「すごい音がしたぞ!門の方だ!!」
衛兵達がこちらへ向かってくる声がした。
3人はギョッとした。
「・・・・・お前がデカイ声を出すからだ。」
「貴方が扉を壊すからでしょ!?」
兎にも角にも、この場にいればたちどころに捕まってしまう。
3人は門をくぐると、衛兵達の声がする方向とは真逆へ走っていった。
ところが、その方向にも衛兵達がいた。
それを確認すると、知盛と銀は武器を構え衛兵が声を出す前に素早く気絶させた。
「・・・・・面倒だな。」
「面倒を起こしたのは誰よ。」
「お前だろ?」
「貴方でしょ!!」
と、衛兵達に気づかれるという事も忘れ大声で言い合った。
「全く。目を離すと何をするか分からない・・・・・・。」
望美が溜息をついた時。
突如、空を切るような音が聞こえた。
そして向かい合っていた二人の間を何かが飛んでいった。
ゆっくり視線を移すと、その先には壁に矢が刺さっている。
「な、なんで?」
思わず反対方向に向き直ると、銀が何食わぬ顔で壁に取り付けられている不自然なボタンを押していた。
「なるほど・・・・・。これを押せば矢が飛び出るのですね。」
少し感心したように銀は頷いた。
「し、銀?」
「はい。何か?」
罪悪感の欠片も無い笑顔に望美は脱力した。
少しは常識人だと、思うのが間違いだった。
そう、彼は曲りなりにも知盛の弟。
何をしでかすか分かったもんじゃない。
「・・・・・・なかなか刺激的だな。」
しげしげと壁に刺さった矢を見る。
「まぁ。これぐらいの罠でもなければ退屈だからな。」
「左様ですね。」
ククッと、知盛は嬉しそうに笑い、銀は第二のボタンを発見して躊躇うことなく押した。
すると、ゴゴゴゴ・・・・・・とい地鳴りが響きだす。
ハッとして振り返れば地面から大きな杭が出現し、鋭利な先端を望美達に向けていた。
望美は顔面蒼白になり、身動きが取れなくなった。
そんな望美を、銀がフワリとお姫様抱っこで持ち上げる。
そして、合図も無く知盛と銀は走り出した。
杭はまるで意志を持っているかのように望美達目掛けて飛び出してきた。
けれども彼らは、いとも簡単にヒラリヒラリとかわす。
そうして杭の射程圏外へ脱出し、同時に城の中へ進入した。
「・・・・・・面白いじゃないか。」
「こ、こんな罠に喜ばないでよ!」
「ご安心を。十六夜の君。貴女は私がお守りします。」
にっこりと邪心の無い笑顔で言われても、望美には何の慰めにもならない。
と、不意に背後から「ガシャン。」と金属音が響く。
お姫様抱っこの望美には、それがしっかり見えた
城内に置かれた鎧の置物達が機械仕掛けのように動いていたのだ。
そして、動いた置物は一つではない。
5・・・・6・・・・7・・・・・。
数えるのも面倒くさくなるほどの数に望美は絶句した。
そして、それらの音に気づいて知盛と銀は振り向く。
「さて・・・・・。困ったな。」
ちっとも困っていない顔と声で知盛が言うと銀もにっこり微笑む。
「ここは、やはり兄上。」
「あぁ・・・・。そうだな。」
「「強行突破で」」
楽しそうに二人は鎧たちに向かって駆け出した。
望美はというと。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
次々と出されるトラップに只々、叫ぶのだった。
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〜あとがき〜
きっと、政子様のお城は、悪質なトラップで溢れていると思います。

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