第十三話 愛くるしさは最強の武器










「ここか・・・・・・。」



数々のトラップを掻い潜り、たどり着いたのは地下へとつながる階段だった。

捕らえられている場所は分からないが、この地下から怪しい臭いがする。

知盛も銀も何の迷いも無くその階段を下りた。

地下へ続くとあってか、階段は暗く。

所々に設置されている小さな明かりだけを頼りに下っていく。



「・・・・・・・ねぇ。銀。」

「はい。」

「そろそろ、降ろしてくれない??」



望美はずっと自分をお姫様抱っこし続ける銀に恥ずかしそうに言う。

けれど、銀は微笑みを崩さないまま。



「ですが、まだトラップが出てくる可能性がありますよ?」

「う・・・・・・。」



今まで出てきたトラップは、質の悪い物ばかりで。

正直、望美では掻い潜ることは不可能では無いかと自分で思う程。

そう、思い起こすと。



「・・・・・・お手数かけます。」

「お気になさらず。」



申し訳なさで声が小さくなった。

と、案の定。

後ろからゴロゴロと、音が聞こえた。

小さな明かりと暗がりになれた目で見据えると。

階段を塞ぐほど大きな鉄球がスピードをつけて転がってきた。

アレに潰されればひとたまりも無い。

顔面蒼白な望美を抱えた銀と知盛は見たこと無いほど猛ダッシュで駆け下りていった。




その頃、階下の地下牢の中では。



「・・・・・何か騒々しいな。」



鉄格子の外を見ながら将臣は暗がりの階段を眺めた。

囚われの身となって数時間。

ここは実に静かで閑散とした所であった。

見張りも居らず、居るのは先ほど城で暴れて捕まった連中だけ。

物音一つしていなかったのに階段の上の方がやけに騒がしい。

音はドンドン近づいているようで、将臣は聞き耳を立ててみた。

そして、微かに聞こえてきたのは、聞き覚えのある悲鳴。



「・・・・・・望美?」



そう、呟いた途端に。



「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」



銀の腕に抱えられた望美が将臣達の目の前に現れた。

そして、その後に続いて無表情で疾走する知盛。

彼らを追うように転がってきた大きな鉄球。

事態が上手く飲み込めず、牢の中の一同があっけに取られていると、疾走していた知盛が足を止め鉄球に振り返った。

そうして、刀を構えて鉄球へ振りかぶる。

力がぶつかり合う様に鈍い音を立てながら知盛と鉄球は火花を散らしながらかち合った。

と、知盛が鉄球を押し返した。

すると鉄球は軌道を大きく変えて牢目掛けて転がりだした。



「んなっ!!!!」



余りに突然の襲撃に全員鉄球を避けるように牢の端っこへ緊急避難する。

鉄格子のまん前に居た将臣も慌てて逃げ出した。

そのまま勢いを止めない鉄球は鉄格子をぶち破り、牢の壁へ激突してやっと動きを止めた。

その壊れた鉄格子と、冷や汗をながす将臣を見ると知盛は表情を崩さず。



「よう。兄上。」



挨拶をした。



「『よう』じゃねぇ!!殺す気かっ!!」



汗をぬぐいながら抗議をする将臣の有様を確認し、知盛は不意に拳を突き出した。

そして、親指を立て。



「結果オーライ・・・・・・。」

「・・・・・その親指ひねってやろうか?



沸き起こりそうな苛立ちを押さえ込んだ。





「び・・・・びっくりした・・・・。」



少し涙目になった望美を銀は心配そうに見つめた。



「大丈夫ですか?」

「うん。ありがとう銀。」



腕に抱かれて見詰め合う二人は、ちょっとイイ感じのカップルの雰囲気のようで。

それに牢の中の数人がイラっとして青筋を立てた。

そんな雰囲気を打破しようと、望美たちの元へヒノエがやって来た。



「望美。来てくれたんだね。」

「ヒノエくん!!よかった、無事だったんだね。」

「あぁ。俺の為に危険な目に遭わせて悪かったね。
俺の為に。

「そんな。気にしないで。」

「優しいんだね。流石は俺の神子姫様。」



愛しそうに目を細めて望美の手を取り両手で包む。

こちらからも恋人オーラが醸し出される。

一番不愉快だったのは銀だった。

自分と望美のイイ雰囲気を妨害され、あまつさえ目の前で見せ付けられて。

銀にも青筋が立った。



「お手を、離していただけますか?ヒノエさま。
私の十六夜の君から。」

「アンタが先に下ろしてくれないか。
俺の神子姫様を。」



ゴゴゴゴゴ・・・・・・・という音が聞こえてきそうな恐ろしい気迫を笑顔で交わす二人。

望美は良く理解できず、二人の顔を交互に見やった。

ふと、望美の目は牢の最奥に釘付けられた。

その姿は見紛うはずもない、ずっと、ずっと追いかけて来た者の姿。

小さな体。

長いオレンジのくせっ毛。

最大の特徴である二つの長い耳。

彼は静かに顔を伏せ、正座をしていた。

この騒々しさを意にもかけず。

『彼』だと認識すると、望美は思わず体を震わせた。

そして、銀の腕と、ヒノエの手からスルリと抜け出すと脇目も振らずに駆け寄った。



「九郎さ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!」



突如名を呼ばれて、九郎は驚き目を開いた。

満面の笑顔の少女が自分目掛けて走ってくる。

すると、両腕で目一杯抱きしめられた。



「やった〜〜〜。見つけた〜〜。捕まえた〜〜〜☆☆☆☆」

「な、何をするんだ!!放せっ!!!!」



望美は抵抗する九郎を、ぬいぐるみのように胸にぎゅぅっと抱きしめた。

そうして頬を寄せ、頭をグリグリと撫でる。

この突然の行為に当事者の九郎は顔を赤くし、パニくった。

周りの者達は呆気に取られた。



「もう、九郎さんたら可愛い〜〜〜!!」

「は、放せと言っているんだっ!!」



抵抗するために、目頭に力を込めて望美をキッと睨み付ける。

けれども、それは逆効果で。



「もう!小生意気なとこも可愛いっ☆☆」



可愛らしさを増幅させただけだった。

手を緩めず愛玩されて、九郎は目を回して、力が抜け落ちる。

もう、抵抗する気力が無くなったかのようだ。

そんな彼らを見ていた他の者達。

お世辞にも仲の良くない、思考もてんでバラバラな彼らの心が今、一つになった。



『羨ましい。』と。



だが当の九郎は。

早く彼女が開放してくれるのを心から願っていた。




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〜あとがき〜
片桐もウサ耳九郎さんをスリスリしたいです。




   
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