第十四話 空回りする文句は言うだけ無駄
「神子・・・・・。そろそろ放してやってはどうだろうか?」
意識を彼方に飛ばしてしまった九郎を心配して、敦盛がそう助言する。
望美は、その言葉に我を取り戻すと、胸の中の九郎を見て驚いた。
「く、九郎さん!!どうしたんですか!?具合が悪いんですか!?」
若干生気の薄れた顔に、望美は慌てて九郎の肩をガタガタと揺する。
その衝撃で九郎は、ハッと目覚めた。
そして。
望美の手の力が緩んだ隙に、彼女の腕からピョン!と脱出すると光の速さで遠ざかり隠れてしまった。
隠れた先から尻尾だけが見えたが、その尻尾は小刻みに震えている。
「く、九郎さん・・・・・。」
望美はガックリと肩を落とした。
「・・・・・・嫌われちゃったのかな?」
「そりゃぁ。お前の馬鹿力が・・・・・・。」
「何が言いたいの?将臣くん?」
「・・・・・何でもねぇ。」
「大丈夫ですよ。望美さん。」
そう言って弁慶は、気落ちする望美から背を向けて、少し震えながら隠れていた九郎に歩み寄った。
そして、首根っこを掴むと軽々と持ち上げて。
ポイッ。
望美へ向けてリリースした。
九郎の血の気が一気に引く。
望美はもちろん大喜び。
「キャー!!九郎さん、お帰りなさ〜い☆☆」
「べ、弁慶!貴様!!」
「煩いですよ。ウサギさん。」
弁慶は苦情など一切受け付けない笑顔を返した。
「あれ?そういえば。どうして九郎さんまで捕まってるんですか?」
望美の記憶が確かなら、いや。確認などしなくても。
彼は白の女王に仕えていたはず。
なのに、この牢に幽閉されているのは何故だろうか?
九郎をグリグリと撫でながらもっともな疑問を口にした。
「ああ。恐らく、役に立たなかったからじゃないですか?」
弁慶の言葉が深々と九郎に突き刺さる。
事実、弁慶の言ったことは本当で。
白の女王の命に異を唱えてしまった為九郎は女王の怒りに触れた。
「少し、頭を冷やしてきなさい。」と、此処へ幽閉されたのである。
冷たく言い放たれた言葉が耳に蘇り、九郎の自慢の耳は元気を無くしうな垂れた。
フォローの余地が無くて、せめてもの優しさで皆、それ以上突っ込むのはやめた。
と。
「おい。さっさと此処から出るぞ。」
不機嫌な声で知盛が言った。
非常識な人間の常識的な言葉に皆、一瞬声を失うが間違っては居ないので慌てて頷いた。
「知盛の言う通りね。早く此処から出ましょう。それにしてもどうしたの知盛?雪でも降りそう。」
「こんな所に居ても退屈なだけだ。」
そして、ニィっと口元を綻ばせると。
「衛兵共を斬るほうが暇つぶしになるだろ?」
心なしか彼の声が弾んでいるように聞こえた。
「・・・・・・帰りは別行動でお願いします。」
「くっ。考えておこう・・・・・。」
望美は知盛(トラブルメーカー)の数メートル後ろから歩いて行った。
「ふぅ。やっぱり明るい所が良いよね〜。」
景時は大きく体を伸ばした。
地下への階段を上がると蝋燭のともし火とは打って変わって日の光が彼らを照らす。
皆、眩しそうに目を細めた。
しかし安息の間はほんの一瞬。
遠くの方からガヤガヤと音がする。
脱獄に気づいて兵達がやってくるのだろう。
全員戦闘態勢を用意した。
だが、兵の足音はこちらに近づいてくる様子は無い。
・・・・・・何故?
「・・・・・そういえば地下に降りていった辺りから追っ手が来ませんでしたよね?」
「えぇ。左様でございますね。」
望美の疑問に銀は頷いた。
地下でアレだけ騒いだのにも関わらず誰も来なかった。
厳重なトラップをしかける白の女王のこと。
脱獄など、そう易々と見逃すはずも無い。
「何か、重大な事が起きたのかもしれませんね。」
「我々の脱獄などよりももっと重大な事かもしれぬ。」
弁慶とリズヴァーンの言葉に皆が頭を捻った。
「この女狐がーーーーー!!!!!」
突然、城中を劈く様な大声が響きわたった。
その声は聞き覚えがある。
そう、クロッケー大会で聞いた年寄りじみた口調の幼い声。
「・・・・・・赤の王ですね。」
弁慶の憶測に誰もが頷いた。
声をする方を見ると衛兵達が駆けていく姿を見つける。
「どうします?行ってみますか?」
望美は皆の意見を聞こうと、ぐるりと全員を見渡した。
「俺はかまいませんよ。」
「面倒くせぇけど、しかたねぇな。」
「姫君の仰せなら何処へでも。」
「異論はありませんよ。」
「う〜ん・・・・オススメはしないけど・・・・・。」
「神子の意志に任せよう。」
「お前の思うままに。」
「十六夜の君の御英断に従います。」
「・・・・・勝手にしろ。」
九郎は望美の腕の中でグッタリと生気を失っているので意見すら出てこないようであるが
その他の面々は特に異は無い。
望美はコクリと頷いて、出来る限り物音を立てないように、衛兵達の後を尾行して行った。
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〜あとがき〜
そろそろ終盤に向かっています。

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