第十一話 物は言い様










「よう・・・・・。また逢ったな。」

「お逢いできるのを楽しみにしていました。十六夜の君。」



ニヤッと笑う知盛とニコニコと微笑む重衡に望美は顔が引きつった。



「な、なんでここにいるのよっ!!!??」



前回あった時のあのシツコイ絡みを思い出す。

関わりたくないと強く思って、望美は一歩後ずさった。

すると、知盛がククッと笑う。



「決まってるだろう?・・・・もういちどお前に会うためだ。」



そう言いながらまたも、刀を抜く。

望美は剣の柄を握った。



「随分、しつこいストーカーね。」

「クッ・・・・。酷い言い草だな。」

「どうやってここまで来たのよ。」

「お前の後をつけたに決まっているだろう?」

「それ、自慢して言うこと?」



偉そうに言う知盛に望美は若干呆れた溜息を吐く。

すると、一緒に来た重衡が切なそうに顔を歪めて望美の手をとった。



「十六夜の君。貴女の言うことはごもっとも。しかし、私は貴女という花に魅せられてしまった
 哀れな蝶。無礼とは知りながらも、この思いを止める事が出来なかったのです。
 ですが、こうして再び貴女に逢えた喜びは何物にも変えがたい。
 どんなお叱りでもお受けしましょう。」



涙ぐみながら言う重衡。

望美は何故か一抹の罪悪感を覚えた。

だが、平たく言えば彼もまた。

知盛同様、ただ望美の後ををつけただけ。

けれども、望美はその点には気づいていないようで、少し申し訳ない顔になって悲しげな重衡を

気遣いうように顔を覗いた。



「・・・・・・そんなに怒ってないよ。その。・・・・・ちょっとビックリしただけ。」

「では、お許しいただけるので?」

「うん。」



望美の答えに重衡の表情が晴れ渡る。



「あぁ。やはり貴女は美しい花のような方。貴女の為にこの身をお使いください。」

「そ、そんな。大げさな・・・・・。」

「いえ。これも焦がれてしまった蝶の定めにございます。」



手をとり微笑む重衡の言葉がイマイチ判らなかったが、

とりあえず、お願いを聞いてくれるらしいと望美は解釈した。



「えっと・・・・。じゃあ、お城に私の仲間が捕まってるの。助けに行きたいから手伝ってくれるかな?」

「はい。喜んで。」



最初の嫌な顔とは打って変わっての笑顔になった望美を重衡は幸せそうに見つめた。



「じゃあ、しゅぱ〜つ!!!!」

「・・・・・待て。」



気分良く出発しようとした望美の背後に刀が向けられ少しドスの効いた声で呼び止められる。

振り向いたそこには明らかに怒った様子の知盛。

それもそのはず。

愉快げに刀を抜いたまでは良かったのだが、その後。

重衡の巧みな話術に望美を奪われ、完全に放置されっぱなしだったのだ。

そうして、そのまま忘れられたかのように背を向けられたのだからこの怒りは止むを得ない。

望美もすっかり忘れていた。



ヤバイ。

メチャメチャ怒ってる。




アワアワとなった望美の横で笑顔を崩さない重衡が口を開いた。



「どうなさったのです?兄上。顔色が優れませんね。」

「ほう・・・・。何故だろうな?」

「さあ?拾い食いでもなさったんですか?」



火に油を注ぐような重衡の言葉に知盛の苛立ちが増す。

だが、重衡自身も相当に気分を害していた。

折角このまま、望美を独占してしまおうとしていたのに横から口を挟まれ

若干ムカついている。

兄弟の間にビリビリとした空気が流れた。

今にも流血沙汰になりそうな雰囲気に望美は必死に割って入った。



「ちょ、ちょっと待って!!仲良くしてよ!」

「無理だ。」

「無理です。」



いかに望美の言葉でも譲れないものがあるようで二人とも一言で否定する。

望美は困ってしまった。

正直こんな兄弟喧嘩にかまって入られない。

早く、皆を助けに行きたいのに。

けれど、一人で行っては返り討ちに会うだけ。

頼もしい助っ人が必要だ。

重衡は着いてきてくれると約束をしてくれたから安心だが、知盛も着いてきてくれれば尚心強い。

ならば、二人を仲直りさせて同行してもらうしかない。

望美はグッと手を握り、意を決したように二人を見上げた。



「二人とも、仲直りして!そうしたら私の大事なものあげるわ!!」



そう叫んだ望美の言葉に二人は「?」を浮かべながら見返した。



「大事な・・・・・・。」

「もの。ですか?」

「そう、大事なもの。」



すると、望美はちょっと視線を斜めに落とし恥じらいを含んだ赤い顔で言う。



「その・・・・・・。ホントは恥ずかしいんだけど。二人が仲直りしてくれるなら私・・・・・・。
 あげてもイイよ・・・・・。」



顔を上げずに、モジモジと手をまごつかせ恥らう望美に重衡は甘い視線を送り、

知盛は凄艶な笑みを浮かべる。



「二人が、好きなら・・・・・・。その。・・・・・・全部見せてあげる・・・・・。」



尚も恥らいながら言う望美に、男二人の期待は高まった。

知盛は望美の手を取り、耳元に吹きかけるように呟く。



「なら・・・・・見せてももらおうか。」



反対側からは重衡も耳元で。



「十六夜の君。ご無理はなさらず。」



気遣った言葉をかける。



「だ、大丈夫・・・・・。全部、食べちゃっていいから。」



そう、半泣き状態の望美は懐から何かを取り出し二人の目の前に掲げた。

二人はそれに、ゆっくり視線を移す。

そして、移した先には。



「・・・・・・十六夜の君?」

「なんだ、これは。」



望美の手にはお菓子の山があった。

望美は頬を真っ赤に染めながら言う。



「だ、だって・・・・・。きっと途中でお腹空くと思って、さっきお茶会したときのお菓子をこっそり持ってきちゃったのっ!!」



望美はその告白が恥ずかしさの臨界点を突破してしまったのか瞼を強く閉じながら続ける。



「でも、二人が仲直りしてくれて、一緒にお城に行ってくれるなら。これ、全部あげるから!!」



「さぁ!」と両手イッパイのお菓子を差し出されて、一気に毒気の抜かれた二人はフフッと笑う。

それをキョトンとした顔で見上げた望美の涙を知盛がそっと掬った。



「・・・・・面白い女だな。」

「え?」

「私は、益々貴女が好きになってしまいました。」



もう、ビリビリとした空気は消え去っていた。

二人は望美の掌からお菓子を一つづつ受け取ると口に頬張る。



「では、お約束どおり。」

「城に向かおうじゃないか。」



手を片方づつ差し出して、望美を誘う。

こうして、八葉救出チームが結成された。




>>>NEXT




〜あとがき〜
どうしてウチの神子さまは食い意地が張ってるんだろう・・・・・?




   
  ご感想などはこちらからお願いします。
  その際は創作のタイトルを入れて下さいね。