魔法使いが言ったとおり、リズヴァーンに連れられて望美は一瞬でお城の入り口まで来ることが出来ました。



「ありがとうございました。」

「礼には及ばない。」



そう、言いながらリズヴァーンは望美に背を向けました。



「先生?一緒に行かないんですか?」

「あぁ。私は表で待っている。12時前になったら戻ってきなさい。」



と、言い残して先生は消えてしまいました。



「じゃあ、頑張ってイッパイ食べてきます!」



オカシな決意を胸に望美は舞踏会場へと急いでいきました。





舞踏会場の中は多くの人で溢れていました。

皆、それぞれに美しく着飾り眩い世界が、そこにはありました。

その中央で、女性達が惚けた顔で一人の人物を囲んでいました。



「こんばんは、王子様。」

「本日も、ご機嫌麗しく。」

「お召し物もとてもステキですわ。」



それぞれ声を掛けた女性達に、赤毛の王子は最上の微笑みを向けます。



「ありがとう、姫君たち。けれど、今夜の君たちの姿こそ、とても美しいよ。」



王子がウィンクをしながらそう言うと、囲んでいた女性達は次々に眩暈を起こすように倒れてしまいました。

その女性達をお城の使用人たちが迅速に別室へ運んでいきました。

それを、王子の友人が溜息を吐いて見ていました。



「全く・・・・・。お前は今日の舞踏会の意味を解っているのか?」

「もちろん。『花嫁候補』を選ぶ為の舞踏会だろ?」

「あぁ。そうだ。それで?目星は付いたのか?」

「それが、お生憎様。皆、さっきの姫達のようになっちゃうのさ。」



王子は「フゥ。」と溜息を吐きました。



「しかし、町中の娘を呼んだのだろう?誰か一人くらい良い娘はいないのか?」

「そうだね。皆、可愛らしい姫たちだけど。俺の理想に叶う女が見当たらないのさ。」

「しかし。国を統べる者として、いつまでも花嫁を決めないわけにもいかんだろう?」



そう言った隣国の王子に、王子はニヤッと笑いながら言い返しました。



「へぇ。言うね、九郎。君は人の事を言えるのかい?」

「なっ!どういう意味だ!!」

「いい年して、花嫁を娶っていないのはお前も一緒だろ?」

「うっ!」

「人の心配より自分の心配が先じゃないのかい?」

「うぅっ!!」

「いっそ、どうだい?今ここで花嫁探しでもしてみては。」

「な、なんだと!?」

「奥手な九郎の為に、俺がイイ花嫁をさがしてやろうか?」



王子はそう言いつつ、大広間を眺めました。



「そ、そんな事をしてもらわなくても、自分の花嫁くらい自分で探せる!!」



そう怒鳴りながら九郎王子は自らニヤニヤ笑っている王子を押しのけて大広間を見下ろしました。

と、その時。

広間の客が一斉にざわつきだしました。

王子達は、その視線の先に目をやりました。

そこには、煌びやかなドレスを身に纏った、美しい娘がいました。

娘は、到着したばかりのようで辺りをキョロキョロと見渡しています。



「これは、これは。美しい姫君のご登場だね。」



王子は目を細めて言いました。

隣国の王子も娘に目を奪われっぱなしです。



「それじゃあ、ご尊顔を拝しに伺おうかな。」



そう言い、王子は大広間へ向かいました。





「え〜っと・・・・・。あれ食べていいのかな?」



舞踏会場に着いた望美は辺りをキョロキョロと落ち着き無く見渡していました。

その上、周りの視線が気になって仕方ありません。



『もしかして・・・・。私。浮いてる!?』



視線の意味を全く理解していない望美は、少しでも場の雰囲気に溶け込もうと

少し澄ましてみたり、気取ってみたりしました。

しかし、余り効果は無かったようで周りの視線は集まるばかりです。



「も、もしかして・・・・・。ドレスが汚れてるのかな?」



そう、言いながら望美は自分の身なりをチェックしてみたりしました。

と、その時。



「こんばんは。月から舞い降りた天女のような姫君。」



恭しく、頭を垂れる赤毛の青年が望美の横に立っていました。



「あ。こんばんは。」



望美はニッコリ笑って、挨拶を返しました。

その笑顔の可愛さに、王子はノックアウト寸前でしたが、頑張って気を持ち直しました。



「ところで、さっきから落ち着かない様子だったけど、どうかしたのかな?」

「え、え〜と・・・・。何だか周りの視線が刺さって・・・・・。私って浮いてます?」

「そうだね。浮いてるといえば浮いてるかな。」

「えぇ〜!?な、何がいけないのかな?」

「ふふっ。一際輝く、その美しさがいけないんじゃないかい?」



王子はそう言うと、望美の手を取りました。

そして、熱を帯びた瞳で見つめながら誘惑するような声で言いました。



「どうぞ、一曲踊っていただけませんか?姫君。」



王子がそうっと、望美の手の甲に口付けをしようとした時。



ガシャーーーーーーン!!!!!



ガラスが割れた音が響き、甲高い声で喚く男の声も響きました。



「えぇい!この無礼者!!そなたがぶつかったせいで服にワインが掛かってしまったではないかっ!」

「も、申し訳ない。」

「今宵のために作らせた新調品なのだぞ!!」



この騒ぎに望美は王子の手をスルリとすり抜け、駆け寄っていきました。

騒ぎの中心には、目を見張るほど秀麗な男性と彼を激しく罵る派手ないでたちの男が居ました。



「一体、どうしたんですか?」



望美は近くに立っていた婦人達に尋ねました。



「それがね、あちらの美麗な殿方が持っていたワインが掛かってしまったらしいの。」

「でも、怒っている方が酔っ払ってぶつかってしまったからなのだけど。」



反論もせずにただ、頭を下げて謝罪する男性に男は尚も、責め立てました。



「謝って済むとでも思っておるのか!?恐れ多くも王子様もご臨席されているこの舞踏会でこのような事をするなど、恥を知れっ!!」



そう、男が言った途端。

望美の堪忍袋の緒が切れました。



「ちょっと!謝ってるんだからもうイイでしょ!?」

「ん?何じゃ小娘が。生意気な。」

「もう十分気が済んだデショ!これ以上この人を責めるのは止めてください!」



そう言った望美の言葉に感化されて、周囲で見ていた人々も口々に言いました。



「そうだ。もう十分じゃないか。」

「第一、自分からぶつかって行ったのに彼だけを責めるのはオカシイだろう。」

「あのお嬢さんの言うとおりだわ。」



ざわざわと、聞こえてくる言葉に男はグッと言葉を押し込んでしまいました。



「ふ、ふん!こんな小娘に擁護されるなど恥さらしめ。」

「折角の舞踏会で騒ぎを起こす誰かさんより、よっぽどマシなんじゃないのかい?」

「謝罪を述べている人間に対してあんまりではないか。」



いつの間にか現れた王子と、王子の友人に男は驚いてひっくり返りそうになりました。



「どうやら、俺の大事な客が世話になったようだね。」

「で、では、この者は・・・・・。」

「俺の友人。平 敦盛って言えば解るかい?」



その名を聞くや否や、因縁を吹っかけていた男は「ヒィィィィ!!」と悲鳴を上げてその場にへたり込んでしまいました。



「おやおや?体調でも崩されたようだ。」



王子は使用人を呼ぶと、男を連れて行くように命じ、男はズルズルと引き摺られて会場から消えていきました。



「さて、騒ぎの原因は追い払った・・・・・いや、ご退席されたようだし。怪我は無いかい?敦盛。」

「あぁ。すまない。手を煩わせた。」



王子の友人は、王子に礼を言うと、望美の方にも振り返りました。



「貴女のお手も煩わせて申し訳ない。」

「い、いえ。私は、ただ出しゃばっちゃっただけなんで。気にしないで下さい。」



ニッコリと微笑む望美の姿に、王子の友人は照れたような嬉しそうな顔になりました。

それを、見捕らえた王子は先程と同じように望美の手を取りました。



「勇敢なる姫君。益々、気に入ったよ。どうぞ俺の・・・・・・。」



王子がそう甘い声で告げた瞬間。



ゴォォォォォン・・・・・・・・。



時計が大きな音を立てて鳴り響きました。

望美はその時計を見て、素っ頓狂な声を上げました。



「あぁぁぁぁ!!!もうこんな時間!?」



時計の針は12時を指そうとしていました。

魔法の効果は12時まで。

望美は大慌てです。



「す、すみません!もう帰らなくちゃいけないんで・・・・・さようならっ!」



王子達に頭を下げて、望美は一目散に駆け出そうとします。

ところが。



ドシン!



馴れないヒールの高い靴で思いっきりドレスを踏んだ望美はその場で転んでしまいました。

ですが、悠長に痛みを気にしている場合ではありません。

望美は痛みを堪えながら、出口に走っていきました。



「・・・・・・行ってしまったな。」



これから愛の告白をしようとしていた王子は余りに急な展開に唖然としていました。



「でも、名前さえ解っていれば探しようもあるだろう。」

「そうだな。もちろん聞いたのだろう?」



そう言った友人達の言葉に王子はムッとしたまま答えませんでした。



「・・・・・もしかして、聞きそびれたのか?」

「これから聞こうと思ってたんだよ。」

「では、探しようが無いではないか。」

「いや。それならば、コレを町中の娘に履かせてみてはどうだろう?」



そう言いながら王子の友人は片方だけのガラスの靴を差し出しました。



「これは?」

「先程の方が落とされていった物だ。」

「ナルホド。この靴がピッタリと合う姫君を探せば良いわけだ。」

「では、早速明日から町中の娘達に履かせてみよう。」



こうして、望美の大捜索が始まったのでした。
>>>>