第八話 みんなで楽しくティーパーティを










リズヴァーンの助言に従い、望美達は森の更に奥へ進んでいった。

すると、急に風に乗って美味しそうな食べ物の匂いが望美達の鼻を刺激した。

途端、小さく望美のお腹の虫が鳴る。

散々、走り回って、怨霊を倒して、体力の消耗は著しい。

けれど、望美は食べ物なんて持っていなかったし、景時も敦盛も残念ながら持ち合わせてなど居なかった。

そんな中、風に乗ってきた食べ物の匂い。

自然と望美の足が速まったのは致し方無い事だった。

木を掻き分けて進むと、少し拓かれた場所に出る。

そこには大きなテーブルと椅子がいくつか並んでいた。

そして、テーブルの上に目をやると、望美は忽ち黄色い声で叫んだ。



「スっゴ〜イ!!!!!」



テーブルの上には煌びやかな食器とティーカップ。

香ばしい紅茶に、甘い匂いの食べ物。

アップルパイやチョコケーキ。

レモンタルトにクッキー、ドーナッツ等など。

たくさんの食べ物が並んでいた。

望美の目が輝きに満ちてくる。

けれど。



「でも、これ・・・・・。勝手に食べたらいけませんよね。」



望美はそう呟いた。



「ん〜・・・・。誰の物かも判らないしね。」

「そうだな。罠とも限らない。」

「・・・・・ですよね。」



今度は、ガックリと肩を落とした。

と、その時。



「おや?麗しの姫君が顔を曇らせてどうしたんだい?」



聞き覚えのある声が望美の耳もとで聞こえた。

驚いて、その声の方へ望美は顔を向ける。



「ヒノエくん!!」

「こんにちは、姫君。俺に会いに来てくれたのかい?」



軽くウィンクを送って、ヒノエは望美の手を取った。

そんなヒノエの頭には九郎と同じウサギの耳がピョコンと可愛らしく付いている。



「つーか。食い物の匂いに釣られてきただけだろう?」

「兄さん!そんな失礼なこと言うなよ!」



図星を突いてきた声も、擁護してくれた声も聞き覚えがあり、望美はそちらに驚いて振り返った。



「将臣くん!!譲くん!!」



将臣の頭には洒落たシルクハット。

譲には敦盛と似た鼠の耳が付いている。

今まで、散々見慣れた望美は、もう突っ込む気も無くて当然のように、それらを受け流した。

そんなことより、今一番気になるのはテーブルの上のご馳走。

望美はゴクリと唾を飲み込んだ。



「相変わらず食い意地のはったヤツ・・・・・。」

「だ、だって。しょうがないでしょ!?イッパイ走ったりしたんだから!」



望美は将臣の言葉に拗ねた声で反論する。

そんな望美に譲が優しい笑顔で言った。



「先輩、良かったら食べて行って下さい。あ。飲み物は何にしましょうか?」

「ホント!?嬉しい!ありがとう譲くん♪」

「いえ。先輩のために作ったような物ですからね。」

「おいおい。勝手に脚色すんな。」



将臣が譲につっこみを入れる。



「兄さんはそこの失敗したヤツでも食べてればいいじゃないか。」

「それが血を分けた兄貴に言う台詞かよ。」

「大丈夫。見た目が悪いだけだから体に悪影響はないさ。」



爽やかなはずの譲の笑顔が何処と無くブラックに見えるのは気のせいだろうと、皆、思った。

そんな譲に将臣も言い返す。



「大体、お前はコイツに甘いんだよ。昔っから。」

「兄さんだって、甘いじゃないか。」

「バーカ。俺はちゃんと飴とムチを使い分けてるんだよ。甘いだけのお前と一緒にすんな。」

「何だよ、その言い方!」



兄弟の言い争いを止める手段を居合わせた誰も持ち合わせて居ない。

幼馴染の望美でさえ、どうしたらいいのかオロオロしてしまった。

しかも、原因はどうやら自分の事のようだし。



『ど、どうしたら・・・・・・。』



割って入るべきかを思案していると、そっと、腰に手が回った。



「さぁ。姫君。あんなのは、ほっといて、お席の方へどうぞ。」



優雅に椅子を引いて望美に着席を促した。



「え?で、でも・・・・。」

「良いんだよ。さぁ。飲み物は何にするんだい?」



そう、望美を座らせると、ちゃっかり自分も隣の椅子に座る。

それに、将臣と譲は口論を中断させて振り返った。



「オイオイオイ!!何してんだよ!?」

「そうだ。ヒノエ!何で隣に座ってるんだよ!」



抗議の声にヒノエはクスリと笑いながら二人を見た。



「別に。ただ、俺としては空腹な姫君をほったらかしにして喧嘩を始めるなんて無粋な事出来ないもんだからね。」



ヒノエのもっともな意見に二人はグッと言葉を詰まらせた。

そんな彼らにお構い無く、ヒノエは望美にニッコリ微笑みながら暖かい紅茶を差し出す。



「どうぞ。姫君。」

「ありがとう。ヒノエくん。」



微笑み合う望美とヒノエ。

将臣と譲は少しの敗北感を味わった。

と、今度はそこへ。



「おや?楽しそうですね。」



三度、聞きなれた声が望美の耳に届いた。



「弁慶さん!」



望美は満面の笑顔で弁慶の下へ飛んでいく。

微かにヒノエが弁慶を見て舌打ちをした。



「弁慶さん。どうしてここへ?」

「君が心配で追いかけて来てしまいました。・・・・・ご迷惑でしたか?」

「そんな事無いです!嬉しいです。」

「良かった。君にそう言って貰えて僕も嬉しいですよ。」

「で?あんた、何の用があって姫君の後を付け回して来たんだい?」

「僕も、お城に用があるんですよ。」



ヒノエのトゲトゲしい台詞を気にも留めず弁慶は答えた。



「え?弁慶さんもお城に?」

「はい。ちょっと野暮用ですが。」

「それじゃあ、一緒に行きませんか?」

「君がお許し下さるなら是非。」

「やった〜。弁慶さんがいてくれるなら、これで森を抜けられるかも。」



上機嫌の望美の言葉にヒノエは少し不満な声で言った。



「この坊さんが一緒だからって安全とは限らないけどね。」

「おや?随分な言い草ですね。ならば君も一緒に行きますか?」

「あぁ。ご一緒させて頂くよ。」



弁慶の言葉に噛み付くようにヒノエは同行することに頷いた。



「わぁ。これでみんな揃ったね!」

「オ〜イ。その中に俺達も入ってんのか?」

「うん。そうだよ?」



手を挙げて質問する将臣に望美はさも、当たり前というように返事をした。



「本人の意思は無視かよ。」

「え・・・・。来てくれないの?」



しょんぼりとした顔で望美は聞いた。



「もちろん、行きますよ。なぁ、兄さん?」

「いや、俺は・・・・・。」

「行くよな?兄さん。」



譲は望美に解らない角度で将臣をギロリと睨む。

その目に将臣は只ならぬ悪寒を感じて。



「しょ、しょうがねぇなぁ。付いてってやるよ。」



引きつった声で言った。



「よかった〜。ありがとう、将臣くん、譲くん。」

「いえ。先輩の為なら喜んで。」



さっきの形相はドコへやら。

譲はにこやかに微笑んでいた。



「それじゃぁ。腹ごしらえをしてから行きましょう。」

「そうだね〜。じゃあ、少し休憩しようか。」

「では、僕もご一緒させて頂こうかな?」

「おっと、神子姫さまの隣はこの、俺だよ。」

「ま。適当に座れよ。」

「それでは、失礼して・・・・・。」



各々、席に座すと望美は嬉しそうに笑った。



「何か、皆でこうして食べるのってやっぱり楽しいですね。」



望美の笑顔を見ながら、束の間の休息。

ティーパーティの開始。






>>>NEXT


〜あとがき〜
大集合ですね。
食べ物の話してるとお腹が空いてきます。
ほら、今も・・・・・。ぐ、ぐぅ〜〜〜〜。



   
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